もののきもち① シャー芯
ボキッ!
あなたの期待に応えられなかった。ごめんなさい。
「あ~、また折れたよこのシャー芯」
あいつは優しい芯だった。
「弱くね?(笑)別のやつにすれば?」
メーカの問題じゃない。芯にも一本一本違った性格があるんだ。
「まぁ、まだ詰め替え用の芯残ってるからさすがに買い替えるのはもったいないよ」
次はだれの番なんだ。
「たしかに!でも俺シャー芯の詰め替え用、最後まで使い切ったことないわ(笑)」
なんだって?
「分かる!絶対使い切る前に失くしちゃうよな」
使われずにケースに入ったまま捨てられるのなんてごめんだ。
「でも、ペンとか消しゴム失くすのよりはダメージないよな」
「それな!最悪誰かに借りればいいもんな シャー芯だったら罪悪感なく借りれる」
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人間はみんな俺たちのことどれも同じだと思ってる。
でも本当はそうじゃないんだ。
ケースを開けるとすぐに飛び出す目立ちたがり屋の芯。
外に出るのが怖くてケースの中でおびえている臆病者の芯。
外の世界を楽しみにしていたのに、詰め替えのときに床に落ちてしまう不運な芯。
狭いケースの中で喧嘩して外に出る前に折れちまう芯もいる。
けどあいつは、紙を傷つけないために強い力が加わると自分から折れる優しい芯
だった。
誰よりも文字を書くことを楽しみにしていたのに。
俺たちシャー芯の願いは、一本一本を大事にし、折れないようにやさしいタッチで、
寿命いっぱいまで文字を書かせてくれるような人間に出会うことだ。
あれからあの持ち主は、俺の入ったケースを失くした。
俺は今、ケースを拾った新たな持ち主と出会い、外の世界に出ようとしていた。
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「あっ! やべっ」
うぉぉぉぉぉぉ!どんっ! 痛てて。
「うぁ、まじかぁ。芯落としちゃったよ」
終わった。運よく折れずに済んだけど、床に落とされた芯はそのほとんどが拾うこと
諦められて捨てられてしまうんだ。
「どこ行ったんだろう」
え?もしかして、こいつ、俺のことを探してくれているのか?
「このへんかなぁ」
ここだ! 俺はここにいるぞ~!
「あ!あった!よかった~!」
俺を一生懸命探してくれたうえに、芯一本でこんなに喜んでくれる人間もいるのか
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それから、俺は寿命ギリギリまで働いた。
新しい持ち主は、丁寧に字を書くやつで俺は折れずにたくさんの文字を書くことができた。
幸せだった。
でも、新しい持ち主は頑張り屋さんで俺はどんどん短くなっていった。
聞くところによるともうすぐ入試があるらしい。
一緒に入試を受けてこいつの力になりたい。
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入試当日
「まずは、みなさんの学校名と名前を書いてください」
よし。なんとか入試当日まで持ちこたえた。寿命は残りわずか。
こいつと一緒に入試を闘いたい。応援したい。
でも、このままだと入試の途中に芯を交換しないといけなくなる。
それではタイムロスして、こいつに迷惑がかかってしまうな。
よし。覚悟を決めろ。
「あれ、芯が出なくなっちゃった。交換しないと。」
交換されたあとの芯はほとんどが床に落とされる。入試の会場だとなおさらだろう。
「名前書くときでよかった~」
こいつが持ち主になってくれてよかった。
「いままでありがとう。」
え?
この持ち主は、替えた芯を床に捨てずに別のケースに入れていた。
きっとポイ捨てをしないためだろうが、そのケースにはギリギリまで短くなって、老いぼれた芯がたくさんあった。
狭いケースにたくさんの芯が入っていたが、持ち主からの愛情をうけている彼らは喧嘩などせずにじっと入試を頑張る持ち主を見つめていた。
この持ち主に出会えてよかったと心から思えた。
俺のほうこそいままでありがとう。おまえに使ってもらえて俺は幸せだ。
入試がんばれよ! おまえなら大丈夫だ!